クリスマスの夜、世界中の子どもたちが眠りにつく頃、
サンタクロースは静かに空を駆けています。
私たちは、プレゼントが届くという「結果」だけを知っていますが、その一晩一晩に、どんな小さな物語が生まれているのでしょうか。
煙突をくぐり、暖炉のそばに立ち、眠る子どもたちを見守るサンタの目には、いったい何が映っているのでしょう。
今回は、森のはずれにある一軒の家で起きた、とても静かで、とても温かい出来事をお届けします。
サンタの訪れと、それを受け取った男の子の翌朝──。
聖夜の余韻が、どこまでも優しく続いていく物語です。
どうぞ、ゆっくりとお読みください。
扉詩
聖夜のあとで
雪を踏む音が
まだ耳の奥に残っている
あの夜、私は
ひとつひとつの家の煙突をくぐり
そっと息をひそめて歩いた
暖炉のそばには
描きかけの絵や、小さな靴下
子どもたちの夢が
まだ温かいまま置かれていた
その気配に触れるたび
心の奥がやさしく揺れた
眠る子どもたちの頬は
雪明かりよりも柔らかく
その寝息は
世界を守る小さな鐘のようだった
私はプレゼントを置きながら
「どうか、このまま」と
そっと祈った
長い年月を越えても
この瞬間だけは変わらない
贈り物よりも大切なのは
信じる心と、待つ気持ち
それが夜を照らす光になる
そして今
聖夜から日が過ぎても
あの静けさは胸に残っている
どうか子どもたちが
今日も明日も
深く、やさしく眠れますように
雪のように静かな夢を
保ちながら
聖夜の小さな灯り
その家は、森のはずれにぽつんと立っていた。
屋根にはふかふかの雪が積もり、煙突からは細い煙がまっすぐ空へ伸びていた。
私はソリをそっと降り、雪を踏まないように気をつけながら煙突へ向かった。
煙突をくぐると、暖炉の火はもう消えていたが、
その前に置かれた小さなテーブルには、
子どもの字で書かれたメモと、欠けたクッキーがひとつ。
「サンタさんへ
ことしもきてくれてありがとう
クッキー、すこし食べちゃったけど
のこりはどうぞ」
私は思わず笑ってしまった。
この「すこし食べちゃった」という正直さが、
どんな宝物よりも愛おしい。
そっと部屋を見渡すと、ソファの上で小さな男の子が眠っていた。
毛布がずり落ちて、肩が少し寒そうだったので、私はそっと毛布をかけ直した。
その瞬間、男の子が寝返りをうち、かすかに口元がほころんだ。
夢の中で、私の足音を聞いたのかもしれない。
私はプレゼントをツリーの下に置き、クッキーをひとかけらだけいただいた。
甘さよりも、気持ちが胸に広がる。
帰り際、私は眠る男の子のそばでほんの少しだけ立ち止まった。
この家に流れる静けさは、雪よりも深く、星よりもやさしい。
「どうか、よく眠れますように」
私は心の中でそっと祈った。
明日、彼が目を覚ましたとき、世界が少しだけ明るく見えますように。
そして私は煙突を抜け、夜空へ戻っていった。
トナカイたちの息が白く光り、聖夜の静寂が、また私を包み込んだ。
聖夜のつづきの朝
翌朝、窓の外はまだ薄い青のまま、森の向こうからゆっくりと光がこぼれ始めていた。
男の子は、いつもより少し早く目を覚ました。
胸の奥が、理由もなくわくわくしている。
毛布を握ったまま、彼はふと気づいた。昨夜、眠る前にずり落ちていたはずの毛布が、ちゃんと肩までかけられている。
「おかしいな……」
けれど、その「おかしさ」が、なぜかあたたかかった。
彼はそっとソファから降り、足音を忍ばせながらリビングへ向かった。
ツリーの前に立った瞬間、目がまんまるになった。
そこには、見たことのない包み紙のプレゼントがひとつ、静かに置かれていた。
昨夜のメモとクッキーの皿も、そのままの場所にある。
ただ、クッキーが少しだけ減っていた。
「……サンタさん、来たんだ」
声に出した瞬間、胸の奥がじんわり熱くなった。
彼はプレゼントを抱きしめるように持ち上げ、そっと包み紙を開いた。
中には、ずっと欲しかった絵の具セット。
色とりどりの絵の具が、朝の光を受けて輝いている。
男の子はすぐに机へ向かい、新しい絵の具をひとつひとつ並べた。
そして、まだ眠っている家族を起こさないように、静かに筆を走らせた。
描いたのは──夜空を飛ぶソリと、星の道。
そして、煙突のそばで眠る自分。
その絵の中のサンタは、なぜかとても優しい顔をしていた。
描き終えるころ、家の中に朝の匂いが満ちてきた。
男の子は絵を胸に抱えながら、小さくつぶやいた。
「サンタさん、ありがとう。また来年も、来てくれるといいな……」
その声は、まだ静かな家の中に溶けていき、まるで聖夜の余韻が、もう一度そっと戻ってきたかのようだった。
あとがき
毛布をかけ直す優しさ、クッキーのお礼、そして翌朝の小さな喜び。
クリスマスの魔法は、プレゼントそのものではなく、「誰かが自分のことを思ってくれている」という温もりの中にあるのかもしれません。
サンタが毛布をかけ直したこと。
男の子がそれに気づいたこと。
クッキーがほんの少し減っていたこと。
そして、絵の具で描かれた優しい顔のサンタ──。
どれもささやかな出来事ですが、その一つひとつが、聖夜を特別なものにしていきます。
大人になると、サンタの正体を知るときが来るかもしれません。
けれど、あの夜感じた温もりや、静かな喜びは、きっと心の奥に残り続けるのでしょう。
来年の聖夜も、世界中のどこかで、こんな小さな灯りがともりますように。
そして、その光が、誰かの心をそっと照らしますように。
メリークリスマス、そしてよいお年を。



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