サウィンの篝火と仮装の起源は?古代の習俗と後世の民俗を見分ける

サウィンの篝火と仮装の起源は?古代の習俗と後世の民俗を見分ける 話題
※近世以降イメージ図
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習俗の読み解き

古代ケルトの祭典「サウィン(Samhain)」。
夏の終わりと新年を祝う「収穫祭」。

サウィンというと、篝火、仮装、死者の帰還といったイメージが思い浮かびます。

異界の門が開き、悪霊や妖精が襲ってくると信じられ、身を守るために動物の皮を被るなどの「仮装」や「篝火(かがり火)」が行われた――という。

しかし、それらのどこまでが古代にさかのぼり、どこからが後世の習俗なのかは、慎重に見分ける必要があります。

今回は、この三つを一つずつ確かめていきます。

 

篝火は何を意味したのか

サウィンを語る際、篝火(かがり火)は欠かせない要素です。

秋の終わり、冬の始まりに火を焚く習慣は、アイルランドやスコットランドの民俗文化にも見られます。

火は人々を暖め、暗闇を照らし、共同体を結びつける存在でした。

また、後世の伝承では、火に守護や清めの意味が与えられることもあります。

しかし、現在よく紹介される「古代のドルイドが必ず大規模な篝火を焚き、悪霊を追い払った」という説明については注意が必要です。

古代の具体的な儀式を詳しく記録した史料は限られており、後世の民俗習慣をそのまま古代へさかのぼらせることはできません。

それでも、冬の暗闇に向かう人々にとって、火が特別な意味を持っていたことは想像に難くありません。

火は闇を消し去るものではなく、闇の中で人間が暮らしを続けるための灯りでもあったのでしょう。

 

仮装と妖精――姿を変えるという行為

現代のハロウィンでは、魔女や幽霊、怪物などに扮する仮装が広く親しまれています。

その起源をサウィンに求める説明もよく見られます。

アイルランドやスコットランドには、近世以降の記録として、仮面を着けたり、衣装をまとったりして家々を訪ねる習俗が伝わっています。

こうした習慣は、後にハロウィンの仮装文化と結びついていきます。

ただし、古代ケルト人が悪霊に正体を見破られないよう、必ず動物の皮をまとっていたという説明には、十分な史料的裏づけがありません。

仮装の意味も、時代や地域によって異なります。

超自然的な存在を表現すること、共同体の中で普段とは異なる役割を演じること、家々を訪ねて贈り物を受け取ることなど、複数の要素が重なって発展したと考える方が適切でしょう。

ここには、人間が一時的に普段の自分とは違う姿になるという、境界の祭りらしい特徴が見られます。

 

サウィンと死者の関係

サウィンは現在、祖先の霊が帰ってくる祭りとして説明されることがあります。

しかし、古代のサウィンが一貫して祖先崇拝を中心とした祭りだったと断定することはできません。

かつては、サウィンが古代ケルトの「死者の神」を祀る祭りだったという説も唱えられました。
しかし、ロナルド・ハットンらの研究では、そのような神の存在を裏づける根拠は確認できないと指摘されています。

アイルランドの伝承に現れる異界の存在は、現代的な意味での幽霊とは必ずしも一致しません。

妖精の一族、神話上の存在、死者を思わせる者たちが、複雑に重なり合っています。

また、後にキリスト教の万聖節や万霊節に関わる行事が広がることで、死者の記憶や祈りという要素もハロウィン周辺の文化に加わっていきました。

そのため、現在の「死者が帰る夜」というイメージには、異なる時代の信仰や習俗が重なっていると考えられます。

 

サウィンの重要性とは

サウィンの重要性は、死者を恐れることだけではありません。

人間が普段は接することのできない存在を意識し、日常の秩序の外側にある世界を思い描いたことにもあるのでしょう。

 

おわりに――古代と後世を見分けるということ

篝火、仮装、死者の帰還。
サウィンを彩るこれらのイメージは、どれも印象的で、広く語られています。

しかし、確かめてみると、古代の確かな記録に支えられている部分は多くありません。

火を焚く習慣は、アイルランドやスコットランドの後世の民俗として確認できますが、古代のドルイドが必ず大規模な篝火を焚いたとまでは言えません。

仮装や家々を訪ねる習俗も、記録が目立つのは近世以降であり、古代ケルト人が悪霊を避けるために動物の皮をまとったという説明には、十分な裏づけがありません。

死者についても、かつて唱えられた「死者の神」の祭りという説は、ハットンらによって根拠が確認できないと指摘されています。

それでも、これらの習俗が無意味だったわけではありません。

冬の暗闇を前にした人々が、火を灯し、姿を変え、見えない存在を思い描いたことは、長い時間をかけて受け継がれてきた感覚でした。

古代の姿をそのまま描くのではなく、中世や近世の民俗の中で形づくられてきた層を一つずつ見分けることが、サウィンを理解する近道なのだと思います。

サウィンがキリスト教の暦と出会い、ハロウィンへ変わっていく道のりについては、「サウィンからハロウィンへ――キリスト教暦、ソウリング、ワイルドハントとの共通点」で解説しています。

サウィンの起源や、『ネラの冒険』に見る異界の伝承は、連載の他の回で順次取り上げます。

参考資料
Ronald Hutton, The Stations of the Sun: A History of the Ritual Year in Britain, Oxford University Press, 1996.
Nicholas Rogers, Halloween: From Pagan Ritual to Party Night, Oxford University Press, 2002.

※古代の祭礼については史料が限られるため、中世文学、後世の民俗伝承、近現代の解釈を区別して紹介しています。

 

星灯✭

確かめた分だけ、古い火は小さくなる。

けれど、その小さな火のほうが、遠くまで届くことがある。

今回のサウィン祭の記事は、現代のハロウィンの華やかさの奥にある、古い人々の異界への畏れを伝える一篇になったと思います。

また次の神話・民俗伝承も、お楽しみに ☆彡

 

SeriesⅠ~Ⅳ.
サウィンからハロウィンへ|万聖節・ソウリングと変遷の歴史サウィン祭とは?ハロウィンの原型といわれる祭りはいつ始まったのかサウィンと異界|『ネラの冒険』あらすじと境界の夜の伝承サウィンの篝火と仮装の起源は?古代の習俗と後世の民俗を見分ける

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